荒川病院

東京都荒川区にある医療・看護を提供する療養型病院。

(平日/9:00?17:00 土曜/9:00?13:00)

新着情報

心温まるエピソード大賞受賞について

グループ内各施設で職員、患者様、ご家族様との間に心温かくなったエピソードを出し合い、共有することにより職員のモチベーション向上を図っております。

この度、当院から出したエピソードが優秀賞を受賞しましたので、ぜひ皆さんにもご覧いただきたいと思い、掲示致します。

優秀賞 「親子の絆」

Sさんは脳性麻痺で、週1回リハビリの為に当院に通院されていました。Sさんはご両親とは別の家で生活をしているため、この日だけはご両親がSさんをお迎えに行き、お父様の運転で来院されます。ご両親は高齢のため、数年前より今後Sさんが一人でも生活が出来るようにと、24時間交代で対応してくれるヘルパーの方をお願いして、Sさんとは別に生活しているのです。

Sさんは、機嫌が悪いと大きな声を上げたり、体を大きく動かし車椅子から落ちそうになることがあります。感情を抑えきれず激しく動かれる時には、ご両親が時間をかけて対応され、徐々に気持ちが穏やかになり、落ち着きます。リハビリが始まると見学されているお母様のことが気になりコミュニケーション手段である文字盤で「寂しい」「実家に帰りたい」という気持ちを訴えます。お母様は「Sちゃん、ごめんね。お母さんも辛いのよ」と声を掛け、お父様は「ほら頑張れ!また迎えに行くから!」と力強く励まします。

リハビリの後、Sさんとご両親は一緒にコーヒーを飲んでから帰りますが、Sさんは、この時間を一番楽しみにしています。嬉しそうに笑う姿は微笑ましく、Sさんご家族にとって本当に幸せな時間なのだと思います。コーヒーを飲み終えるとSさんとご両親は別々の所に帰る為、お別れをします。

しかし今年は、新型コロナウイルスが流行した影響により、リハビリに通うことが出来なくなり、この貴重な時間さえも無くなりました。ヘルパーの方に話を聞くと、ご両親ともなかなか会うことが出来なくなり、寂しくて急に大きな声を出したり、時々食事を拒否したり嘔吐するなど精神的なダメージが身体症状にも現れているようでした。私がSさんの様子を伺いに自宅へ行くと「来てくれると知ってから嬉しくて!」と笑っていました。また、人と触れ合う機会も減り、悲しくて仕方がなかったとも教えてくれました。その後、Sさんとご実家まで行くと、お元気だったお父様は、表情が硬く、認知症を発症されていました。感染症の影響で家から出られず、活動する機会を失い、身体機能も低下していました。お母様は「そのまま気持ちまでも動かなくなってしまったの」と話してくれました。その時、お父様に会ったSさんが突然、「お父さん、今から一緒にお散歩へ出掛けるよ!」とお父様を誘ったのです。Sさんの強い決意と大きな愛情を感じました。お母様は「Sちゃんが誘ってくれているよ。お父さん!こんな嬉しいことはないですよ。」そう言って涙を流していました。Sさんとお父様がお散歩に行く姿を後ろから見送りながら、お母様の「辛いことがあっても、あの子のことを考えると生きているってすごいことだって思うのよ」という言葉に、私は胸が熱くなりました。

時間の経過とともに変わってしまうものもありますが、家族の思いや絆は変わること はありません。

私たちは今、みんなで新型コロナウイルスと向き合っています。この状況が今は変わ らなくても、互いに励まし合うことで、少しは心が軽くなると思います。今できるこ とをする、一生懸命取り組むうちに、きっと道が開けてくると私は信じています。

2022年3月8日